![]() (北海道教育委員会教育長賞) ![]() 留萌支庁地区 幌延町立問寒別中学校 3年 題 『父のように』 |
「父のような酪農家になる」それが僕の将来の夢です。 僕の父は、普段は面白いことを言ったりするとても楽しい父です。 家族思いで、優しくて、僕にとってはとても大きな存在です。 僕の家は祖父の代から続いている牛飼いで、百頭ほどいる牛の鳴き声が、 一日中聞こえています。父と母は祖母と仕事をしていて、学校から帰ったら、僕もそれに加わります。 ある日、いつものように牛に餌をやっていたら父がやって来て、 「その牛、餌食べてるか?」と聞いてきました。あわててその牛を見ると、 牛は、餌を全く食べていなく、どことなく元気がなさそうでした。 僕は、それに全然気付きませんでした。そうすると、その牛をなでながら、父がこう言いました。 「牛舎に来たら、牛の様子をみなきゃ。」父のひと言で、 「牛はただの商売道具ではなく、家族なんだ」と気づき、それからは、 牛舎に行ったら牛をしっかり見ることを心がけました。 その日もいつもと同じように、牛舎に行き、牛の様子を見ていました。 すると、一頭の牛が、苦しそうに横になっているのが見えたので、走って近づいてみると、 足の下の方から白いものが見えました。この時は、 牛についてよく知らなかったので、何が何だかわからず、ただ驚き、パニックでした。 僕のそばで牛は、さらに苦しそうに、目に涙を浮かべながら、 小さくかすれた声で鳴いていました。僕は急いで父を呼びに行きました。 すると父はとても落ち着いた様子で立ち上がり、牛舎へと向かいました。 僕も父の後をついて行き、そのうち、牛が産まれることがわかりました。 父と母で、半分出かかっている牛を引き始めました。 僕も、自然と一緒に、牛を引っ張り始めていました。牛と呼吸を合わせ、 牛がふんばる一瞬に合わせながら、引いていきます。 これを繰り返し、そうして、新しい命が誕生しました。 しかし、その子牛は頭をダランとさせていて、体をピクリとも動かさず、 目を閉じたままです。その時父が、「死んじゃダメだ!起きろ!」と心臓マッサージをしながら、 必死に牛に声をかけていました。必死にです。 そうすると牛は、せきをして空気を吸い始めました。 その時の父の姿は、何だかいつもより、とても大きく見えました。 僕は、このとき初めて“牛を飼おう”と思いました。 父のように、「どんなに小さな命も見すてない、優しさと、 大きな心を持った人になりたい」そう思いました。 今、世間ではいろいろな事件がおこっています。 中には、子どもが親を殺すというものもあります。 どうしてそんなことができるのか、僕にはとても信じられません。 もちろん、親子でも一人一人違う人格をもった人間ですから、 意見が違うことだってありますし、ぶつかることだってあります。 でも、そんな時こそお互いに、相手の立場や気持ちになって考えてみることが大切だと思います。 世の中の人たちがみんな思いやりの心を持てたら、 自分の親を殺そうなんていう気持ちはおきないはずです。 考えてみると、牛と接する父や家族と一緒にいる父、 僕は、父の姿からいろんなことを教えてもらっているのだなと思います。 父も母も、僕に「将来は、自分の好きなことをしていいよ」と言います。 将来の自分の姿が、まだ見えないでいる僕にとって、 この言葉はとてもありがたいものです。 しかし、僕の中でどんどん大きくなっていく父の存在が、 「酪農家になりたい」と思わせるのです。酪農家は決して楽な仕事ではありませんが、 楽な道を選んでいく人生ではなく、いろいろなことを経験し、 僕もいつか、父のように、だれかの大きな存在になりたいと思います。 |