優秀賞(北海道教育委員会教育長賞)



釧路地区 北海道教育大学附属釧路中学校 3年 恒川 礼奈つねかわ  れいな

題 『手紙』

  私と祖母の間で、小さな封筒が行き来する。二人の距離、およそ380キロ。 毎日わくわくしながら、郵便受けを覗き込む。これが二人の毎日の日課になったのは、 今から5年ほど前からだ。
  私には、札幌で一人暮らしをしている祖母がいます。 5年前の祖母の誕生日に初めて書いた、一通のバースデーカードを、 彼女はとても喜んでくれました。そして数日後、「カードありがとう。大切にするからね」 の返事が。その手書きの文字を見て、とても嬉しかったことを今でも覚えています。 そして小さいながらに、「手紙は、書く人ももらう人も幸せになれるものなんだ。素敵だなぁ」と 強く感じ、それ以来事あるごとに祖母へ手紙を書いています。
  最近は、自分の手で文字を書き、自分の意思をそれで伝えるということが、 めっきり減っていると思います。その理由はきっと、メールや電話などの通信機器の 発達があるからでしょう。このような機器は、連絡手段として大変便利であるし、 今の現代にはなくてはならないものですから、決して否定をするつもりではありません。 けれども私は、みなさんに知ってほしいのです。手紙が笑顔の種であることを。
  誰が打っても同じ字体でやりとりされるメールに対し、 手書きの手紙はとても温かなものだと私は思います。その筆跡から、 心の状態が伝わってくるものです。現に私も、祖母からの手紙を読んでいて 「元気がなさそうだな」と感じたり、祖母から「最近は忙しそうだけれど身体に気をつけて」と いった内容の返事がくることもあります。やはり手紙は、 直にそういった相手の様子に気付きやすいのです。
  また、手紙を書く時は、必ず相手のことを考えます。「喜んでもらえたら」という思いで便箋を選びます。相手の表情や仕草を思い出しながらペンを進めます。住所を書き、郵便受けを覗く相手のわくわくした顔を思い浮かべながら、ポストに投函します。そんな一つ一つの行為が、お互いの心の距離を近くしているんだなと思うと、手紙は本当に素敵なものだと改めて感じるのです。   そして何よりも、心から心へ伝わる優しさが、手紙にはあります。 何かつらいときや疲れたときに、祖母の手紙を読み返すと、 なぜだか笑顔のなれるのです。パワーがわいてくるのです。それは何より、 大好きな祖母の愛情を便箋いっぱいから感じるからでしょう。 いつも札幌から見守ってくれる祖母の、文字から伝わる温かいエール。 送られてくる手紙を入れる大きな箱は、祖母の優しさもつまってどんどん重くなり、 私だけの大切な宝箱となっています。
  「手紙」は、ただの小さな封筒と、たった数枚の便箋です。 「文章で相手に意思を伝える」という点では、メールと何ら変わらないかもしれません。 けれどもその封筒に入っている、目には見えない笑顔や聞こえない弾んだ声、 文字に込められた相手の優しい心配りは、メールとは違った感慨深いものがあります。
  その人の筆跡、封筒や便箋の絵柄、切手の消印、 そういったもの全てが自分の想いとなって、相手の手元に届くのではないでしょうか。
  小さな画面を見つめて何時間も部屋にこもり、人間同士のコミュニケーションが 危ぶまれている今の時代、手紙の素晴らしさを一人でも多くの人に知ってもらい、 笑顔が増えることを願ってやみません。たった一通の手紙から、 たくさんの笑顔が咲くことを祈り、今日も私は祖母へ手紙を書きます。